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灰色の手帳 由香里 ―水底から― 第八話『晒された汚点 ―― 悪夢のジュース』

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2011 / 06 / 08  Wed
由香里Ⅰ   
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「……そんなわけですから……下着の持ち主が分かり次第、私の方から返しておきます。黙っていて、本当にすみません」

 由香里が話し終えても、先輩は表情を変えず、視線をテーブルに泳がせていた。

「そう、分かったわ。言いたいことは、分かった。けど、一応念の為に見せてよ」

「嫌です」

 考えるより先に口から出た、その撥ね付けるような冷たい声音に、自分でも驚く。

「自分が犯人だと認めているのに、それが嘘じゃないかと疑うなんて、おかしいです」

 滑稽だった。嘘だと気づいていてもそうと言えない先輩の境遇を思うと、笑いすらこみ上げてくる。

「それとも、どうしても見たい理由でもあるんですか?私には、そんな理由思いつきませんけど」

 優位に立ったことによって、今までの侮辱的な仕打ちに対する怒りが、由香里を突き動かしていた。
 先輩のさっきまでの無表情はすでに崩れ、明らかに、動揺している。京子は京子で、呆然と二人を見比べている。

「……駄目よ。由香里のせいで皆、チェックを受けたんだから。由香里にもちょっとくらい恥ずかしい思いをしてもらわなくちゃ」

 いよいよ馬脚を露わしたか。もはやなりふり構わぬ先輩を、もはやて敵意を隠すこともなくなった由香里は、からかった。

「そんな理屈が通ると本気で思っているんですか?必死ですね」

 先輩の顔がみるみる赤く染まる。

 ――いい気味だわ。わたしにあんたの手は届かない――。

 そのとき、先輩が手をバッグに伸ばし携帯を取り出すと、何やら操作し始めた。その指は動揺のためか震えている。京子に目をやると、その目には、何かに期待するような光が宿っているような気がした。

 もしかして……。

 仲間でも呼ぼうというのだろうか。
 もしそうだった場合、無理やりにでも逃げるつもりだ。テーブルの下で、バッグの紐を掴む。

 しかし、先輩の狙いは、由香里の予測とは全く違うものだった。
 操作を終えて顔を上げた先輩の顔には、さきほどとは打って変わって笑みがあった。

「……実はねぇ、由香里。あたしは、あんたのこと、これっぽっちも疑ってないんだよ。」

 ――……いきなり、何を言い出すのか。


 先輩は秘密めいた笑いを浮かべると、由香里の首に腕を蛇のように巻きつけた。

 由香里の前に携帯の画面を掲げる。

「あたしが、由香里ちゃんの下着なわけないって思うのには、根拠があるの」

 画面に何かの画像が表示された。紺色をバックに、水色の物体が収められている。それが何か分かったとき……由香里の心臓は止まりかけた。

 それは携帯の待ち受け画面だったが、そこに映っていたのは、待ち受けにはおよそふさわしく無いものだ。

 それは、由香里の下着だった。

 顔の下半分だけ映した水着姿の少女が、薄い水色の由香里の下着を、股布の部分がカメラに映るように、ややためらいがちに押し広げていた。紺色の背景は、少女が着ている水着だった。指の幼さや、わずかに見える体のラインの未熟さから考えて、一年生だろう。

 問題は、下着に付着しているものだった。
 それを見た瞬間、由香里の頭から、まるで、手に握った砂がさらさらと消えていくように――血の気が引いていった。

 そこには、茶色の染みが写っていた。女の下着に、断じて有るまじきもの……。それは人間の最も生活的な、最も卑しい行為の痕跡だった。

 しばらくの間、それが意味することを、俄かには信じられずにいた。

 ――見られた……?

 ――自分の、最も、汚い部分を。

 ――後輩達に……?

 ――水泳部の部員、皆に……?

 ――多分、そうだろう。

 ――……そんなことが……起こりえるだろうか。

 ――下着にくっきりと写った、茶色の、染み。

 ――ためらいげに、それを押し広げ、見せ付ける、少女の指。

 ――自分が……わたしが……汚い……

    ああ……っ!

 胸の中で、何かが、破れた。

***

 空気が抜けたように、鼻がひゅうひゅうと、情けない音を立てる。あまりに過酷な現実に、くらくらする。
 その画面は、数時間前に起こった、少女にとって決定的な事件のあらましを、端的に切り取っていた。

 少女にとって、いや、人間にとって、最大の恥部を人に見られた……。同年齢の少女達に……。由香里には、失ってしまったのが、学校におけるある種の偶像としての自分だけだとは思えなかった。女として大切な何かが……永遠に失われてしまったような……。

 頬に硬い感触。先輩は、携帯の画面を京子の方に向けて、由香里の顔の横にかざしているようだった。携帯に映った破廉恥な画像と、その隣の由香里の顔を相互に見比べさせるのだ。
 
 顔をうつむけたままの由香里に、先輩は追い討ちをかける。

「ねえ由香里。まさか、学年一の美少女の由香里ちゃんが……ねえ。こんな……うんち付けた下着、履いてるわけないもの。だから私、由香里のこと、ちぃーっとも疑ってないんだよお」

 京子の哄笑がそれに続く。

 なんという、屈辱だろう。

 出来ることなら、立ち上がってこの最低な女達を引っぱたいてやりたかった。しかし、それをすれば、先ほどまでのチャンスが拗れてしまう危険があるように思えた。
 そう、由香里にはまだ強みがあった。確かに、自分の下着は後輩たちに晒し物にされた……。しかし、当の後輩たちは、その下着が由香里のものだとは思っていない筈だ。

 由香里は顔を上げ、先輩の方を睨んで言った。

「そうですね。だからさっきから違うと言ってるじゃないですか。もう、私のじゃないってことで、いいですよね。帰らせてもらいますから」

 その声は嗚咽をこらえて引きつっていたが、それでもはっきりと、由香里は言い放ってみせた。先輩は、由香里の意志を折ることができなかった。そのことは、少なからず先輩を動揺させたようだ。形勢建て直しは、ならなかった。

 とはいえ、由香里は記憶にこびりついたあの画像を、頭の中でもう何度も再生していた。水着を着た一年生の少女。その華奢な指で押し広げられた下着の股布。そこに染み付いた茶色の点。

 下着を広げるその指には、ためらいがちな様子があった。

 きっと、先輩に言われてしぶしぶやっているに違いない。だがその指には、悪事に加担する背徳感というより、純粋な恥じらいが宿っていた。それが、由香里をひどく傷つけた。

 少女の所作は、その染みの恥ずかしさを、その場にいない由香里の代わりに恥じ入って見せているかのように思えた。
 顔の定かに判らない、ただ口元の笑みだけを画面に納めた少女。それが一年生のうちの誰なのか、由香里はおおよその予測を打ち立てることはできた。しかし、そんなことは何の意味もなさない。

 下唇を噛むようにして、そして両端からわずかに歯を見せた、幼い感じのする笑み。
 汚いものから顔を背けるようにして、自分の手にあるものの放つ恥に感化され、同時にその持ち主を、同じ女として軽蔑している笑み。

 由香里はその笑みを、水泳部員――特にこっそりと自分を哀れみ、慕ってくれていた後輩たち――のどの顔にも、容易に重ねることができた。

 由香里は立ち上がろうとした。すかさずその腕を先輩が無言で掴んだ。負けじとにらみ返すと、先輩は笑みを浮かべた。それは不敵というより、脅えと怒りと驚きの混在した、卑屈な笑みだった。手に力が入る。渾身の怒り、獲物への執念がこもったその凄みに気圧される。
 由香里は腕を振り切り、強引に抜け出ようとするのを、先輩が塞ごうとする。両者はしばらく揉みあった。

 そのとき、先輩の手が由香里のジーンズに伸びた。

 その手は見事にタックを掴み、そのまま、渾身の力で下方にずらされた。
 通常ならば、腰骨との摩擦がそれを阻むだろうが、下着を身に着けていない分、隙間があった。ジーンズはずり落ちた――が、由香里は腰をひねり、手で引っ張りあげることで、何とか押し留めた。

 すかさず先輩のもう片方の手が伸ばされ……留め金の部分を掴んだ。先輩はタックを手前に引っ張った。そして由香里の動きを固定する。由香里はそれから逃れようと立ち上がった。その隙を見計らったように、先輩は驚くほどの器用さで――。

 留め金が外れた。同時にタックを握っていた先輩の手が、ジーンズを引っ張る。反射的に腰を浮かせたことは、由香里にとって裏目に出た。座席との摩擦をすでに失っていたジーンズは、いとも容易にずり下ろされた。由香里の方もジーンズを引っ張り上げて抵抗した。ファスナーが音を立てながらおもむろに開いた。

 目が合った。

 先輩の下から覗き込むような顔を見て、なんて卑屈な生き物だろうと、由香里は思った。まるで飢えた男のよう。違っていたのは、性欲では無く、女に恥をかかせたいという欲望だけが目に宿っていることだった。

 ぎりぎりとジーンズがずり落ちた。茂みが露わになり、京子が歓声をあげた。

 由香里はジーンズから手を離した。
 とうとうそれは、ひざまでずり落ちた。

 髪を掴み、先輩の顔を持ち上げた。狂ったような笑みを浮かべている。荒い息を漏らす口の中は、唾液で光っていた。

 ジーンズが、中腰になっていた由香里の膝から滑り抜け、踝までずり落ちた。由香里はとうとう剥かれてしまった。シャツがかろうじて股間を隠しているが、白くやわらかい尻は突き出され、あられもない様相を呈していた。

 下半身に普通なら絶対にありえない筈の外の冷たい気を感じた。京子の哄笑が頭の中を駆け巡ると、頭に血が上り、色んな昂奮がないまぜになった……そして渾身の力で、先輩の頬を張った。

 ビンタは驚くほどに、綺麗に決まった。店内のBGМにも負けないほどの、激しい音が鳴り響く。
張り倒された先輩は、座席の背もたれに寄りかかるようにしてうな垂れている。もつれた長い黒髪が、その表情を隠していた。
 隠さないと…早くジーンズを履かないと。

 ここまで大きな音を立てれば、さすがに他の客達も不審に思い始めるはずだ。しかし、そんな状況にありながら、由香里は衣服を整えることを忘れていた。
 由香里の視線は、テーブルの中央のあるものに奪われていた。

 倒れたカップ――さきほどの騒ぎのときに、倒してしまったらしい――が、そこにはあった。さきほどまで由香里が口にしていたカップは蓋が外れ、そこを中心にコーラの水溜りが広がっていた。

 その水溜りの中に……灰色の物体があった。いや、それは本来は、灰色ではなかった。それがつい数時間前まで自分の体を包んでいた頃には可愛らしい水色をしていたはずだった。

 言葉にできない感情が、由香里の喉を詰まらせていた。頭の中では、コーラを薦めてきたときの先輩たちの表情がリプレイされていた。

 この女……こいつら……本当に……本当に……どこまで腐ってるの……!

 自分に下着入りのジュースを飲ませた実行犯は、すぐ目の前でうなだれているのに、どんな言葉を浴びせればいいのか分からなかった。言葉より先に、由香里を発作的な嘔吐感が襲った。

 コーラを最初に飲んだ時に感じた、奇妙な苦味……。その苦味は、頭の中に未だ鮮烈に焼きついたままの映像と結びついた。下着を押し広げる幼い指、真っ白なクロッチ、そしてそこにうっすらと浮かんだ茶色い染み……。強烈な不快なイメージを作り上げた。

 嫌悪感や不快感などといったものを超越していた。悪夢そのものだった。
 胃液が逆流した。苦しくて、息が出来ない。口をふさいだ手の間から、酸っぱい匂いのする液体が染み出した。

 そのとき、階段を昇る足音がした。

 店員さん――!

 激しい嘔吐の欲求と戦いながら意識を振り絞り、由香里はジーンズを引っ張り上げた。
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