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灰色の手帳 由香里 ―水底から― 第三十二話『第二ステージ――道化の衣装と蛍光灯』

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2013 / 06 / 13  Thu
由香里Ⅰ   
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 由香里は再び、トイレの暗い空間にいた。

 鏡の前で、収穫物を、改めて確かめていた。
 靴があった。財布も、ビニール袋の中にあった。

 だが、衣服は……。
 それを掲げた。

 ビニール袋に入っていたのは、夏用の体操服だった。

 だが、由香里が普段使うものとは、あまりにも違った。

 まず、小さかった。路地で確かめたときも、明らかなその小ささに驚いたが、改めてこうして広げてみると、思った以上の小ささだった。
 その理由は、体操服のシャツに縫い付けてあるゼッケンから、明らかだった。
 そこには、

「3ねん 2くみ はしだ」

 とあったからだ。

 呆れたことに、体操帽まで入っている。こちらにも、小さく名前が縫いつけてあった。
 いずれにせよ、覚えの無い名前だった。

 もうひとつ驚かされたのは、体操服の下、短パンだった。
 それは、少なくとも由香里が見たことの無い形のものだった。

 驚かされたのは、その面積の小ささだ。
 体操服自体が小さいということではない。ズボンの裾の部分を切り取ったかのように、その短パンには太ももを 覆う部分が皆無だった。そして、クロッチにあたる部分から、腰骨までのVラインが急に見えた。

 ハイレグとまではいかないが……まるで、下着だ。
 生地が分厚い以外は、由香里が普段つけている下着と、殆ど変わらない……。
 辛いことに、色までも、下着を思わせる明るい色をしていた。白みがかったベビーピンクで、小学生低学年なら確かにいいだろう。だが、ただでさえ体に比べて小さいのに、こんな色のものを履いたら、まるで……。

 あり得ない、こんなの……。
 いくら小学生とはいえ、こんなのを着せられるものなのだろうか。

 そんなことを考えて、ふと、ぞっとする。

 この服の持ち主のことは、どうでもいい。
 最悪なのは、今度は、わたしがこれを着る番だということだ……。

***

 由香里は鏡を見て、赤面した。

 思った以上に、あまりにも、酷かった。

 由香里は、体操服のシャツを着て、鏡の前に立っていた。
 あれほど待ち焦がれた、衣服のあの感触。
 しかし、体操服を身に着けた由香里の今の感想は、どちらかと言えば、水着を着る感覚の方に近かった。

 自分よりふた周りも小さい、どこかの見知らぬ女の子の体操服……。鏡に映されたその姿は、それを纏うのに要した苦労に報いるものではなかった。

 その服の小ささは、川沿いの家の少女の衣服とは、スケールが違った。多分この持ち主は、小学生の中でも、さらに小柄なほうのはずだ。

 背丈自体ももちろんだが、由香里の体を覆うには、不十分すぎた。

 体操服のシャツは、スウェットスーツのように、由香里の肌にぴったりと張り付いた。
 どこもかしこも、引っ張られて、唯でさえ薄い生地が、更に薄くなっている。

 特に酷いのが、腕と胸だった。

 腕を出す為に明けられた穴は、由香里のそれには小さすぎた。由香里の腕は輪ゴムで止めたように拘束され、血液がそこでとまってしまいそうなほどだった。

 一方、由香里の乳房もまた、痛みを感じるほどに圧迫されていた。小学生なら、まだ乳房の大きさまで合わせていないのだろう。胸囲を包む部分は、胴回りの違いに加えて、由香里の胸の分を包む為に、限界まで引き伸ばされなければならなかった。

 ゴムの力で、背中を丸めることすらできない。
 尤も、強引にでも、そんなことをしようものなら、肩に引っ張られることでようやく確保された首の穴が狭まって、由香里の首を締め付けるだろうが……。

 引き伸ばされた生地は極端に薄くなって、今にも裂けてしまいそうだった。
 胸の部分など、引き伸ばされた糸と糸の網目から、白い肌がうっすらと透けている――。

 乳房どころか、乳首の形まで浮かび上がらせているのをみて、由香里は卒倒しそうだった。
 ゼッケンを剥がしたことを後悔した。もっとも、でかでかと3ねん2くみ、というのも……。

 最悪なのは、それだけではなかった。シャツの裾は、どんな伸ばしても、お臍まで届かない。お腹周りが、丸出しなのだ。

 鏡に浮かんだ由香里の姿は、あまりにも珍妙だった。
 薄い生地は服というより貼り付けられた和紙のようだ。体のラインをそのまま現して、薄くなった部位は肌の色を透かせている。
 由香里の肩は広げているのが精一杯という風に怒っているし、二の腕はうっ血している。
 薄布に胸は潰されて、乳首の形を浮かばせている。
 服のところどころがところどころびりびりと音を立てて、お臍は丸出しだ。

 由香里は、短パンを取り出した。短パンというよりは、それとは完全に異質の衣服だが……。実際、裾の短さに違和感を感じて調べてみたが、裾の部分もきちんと縫い付けられていて、元はあったものを、後から切り取ったという感じではなかった。

 においを嗅いでみる。体臭や汗とは別の、据えた様な匂いがした。何年も暗いところに仕舞っていたような、そんな匂いだ。

 上半身の珍妙さを、このパンツがカバーしてくれるとは思えないが……。

 由香里は、それを裸の下半身にあてがってみた。
 鏡に映し出さされた姿は、予想通りこっけいな物だった。それ以前に、腰周りがちっとも足りていない。

 シャツのちぐはぐさを見るだけで、こんなものを着て、外を出歩くことなどできないことは、明らかだ。
 由香里は携帯を見た。日付は、既に変わっている。

 あの後、誰からも、着信は無いようだった。
 母からのメールくらいはあるかと思ったが、娘を信頼しているのか、はたまた言うほど関心がないのか……。

 暖かい我が家を、頭に思い浮かべる。

 電車に乗れば、帰れる。
 電車に揺られるのだって、ほんの数分だ。

 その間だけ、我慢すれば……。

 全裸で街を歩いたという経験が、由香里を大胆にさせていたのだろうか。
 由香里は、ある決意を固めていた。

 パンツは、はじめ見たときは履けそうな気もしていた。脱ぎ捨てられた下着類より、ほんの少し大きく見えたからだ。だが、それは生地の素材のためであって、さらに、元々ボリュームがある代わりに伸縮力が無いらしい。

 思い切り広げても、その幅が腰にやっと届く程度なのだ。

――こんなのに、入るだろうか……。

 由香里は、玩具の様に小さなパンツの穴に、つま先を通した。

***

 箱の中で、隠れる様にしゃがみ込んでいた。
 もちろん、電車が来るのを待つためだ。

 由香里は、あの体操服を着ていた。
 尤も、この状態を、着る、といえるかどうかは、怪しかったが。

 手で、腰をなでる。むき出しの肌が、そこに触れた。

 自分の姿を思い浮かべて、一人、赤面する。誰にも見られていない、この駅前の電話ボックスの中ですら、ここまで恥らうような姿。

 本当に、電話ボックスを見つけられたことは幸いだった。

 駅前は人通りは多くなかったが、ここにいる数分の間にも、ぽつぽつと、人や車が通り過ぎる音を聞いたからだ。

 ここへ来る途中だって、道路を渡った歩道に、犬を連れた婦人の背中を見たのだった――。

 由香里は慌てて離れたが、由香里の物音を聞きつけた婦人が今にも振り返ろうとするのを、立ち去る瞬間に確かに見たのだった。こんなところを丸裸で渡ったと考えるだけで、頭がくらくらした。

 ここまで来るのに、人に遭遇したり、気配を感じたりしたのは、運が悪かったからだろうか。
 それとも、裸でここまで来るのに、誰にも会わなかったのが、運が良かったのだろうか。
 冷静になると、あの姿を、人に見られなかったということなど、あり得ないと感じる。

 やはり、あのときはどうかしていた。

 尤も、今だって、こんな格好で、電車に乗って家に帰ろうと考えているのだから、まともじゃない。
 むしろ、人に見られることを前提の上で行動している意味で、より狂っているかもしれない……。

 この一日で、由香里は明らかに壊れつつあった。

 遠くに、あの音を聞いた気がした。

 やがてその音は大きさを増してきた。

 電車だ。

 由香里は、バッグを体に引き寄せた。
 胸の奥で、何かが由香里の心をノックしていた。
 嘔吐感の片隅に伴う、仄かなもの。

 これ。
 この場に消えてしまいたいほどの緊張感と不安の一方で、何か期待感が高まっているかのような。

 ……気のせいだ。そうに決まってる。

 電車が停まる音がした。

 貫通扉の開く音。

 ――わたしは、そんな女じゃない。

***

 人が降りてくる気配は無い。

 少女は立ち上がり、電話ボックスから飛び出した。
 あたりを見渡しもせず、そのまま駅へ走る。

 何時まで経っても、この違和感には慣れない。
 体操服は、ぴったりと肌に張り付き、布ずれの音ひとつ立てなかった。

 水着と違って、たわみひとつ無いのだ。
 その代わり、ゴムに拘束された手足を動かすのはやけに難しく、不自然な動きになってしまうが。

 服を着ているという感じがまるで無い。
 お腹やにゅっと伸びた手足は、むき出しだった。

 改札の向こうに、電車が見える。少なくとも目の前に車両に、人はいない。
 あらかじめ用意しておいたカードをかざし、目の前の車両に駆け込んだ。

 そこは、真っ白な世界だった。影をほんのわずかにでもつくるまいとするかのように、隅から隅まで、石鹸のように白い蛍光灯の明かりで照らされていた。マネキンモデルになったような気すらした。

 尤も、こんな悲惨な格好をしたマネキンなどあるはずもないが。

 車両の中を見渡すこともなく、貫通扉に向かうと、備えられた窓から向こうの車両を覗き込んだ。

 ……しまった。

 ここから見える範囲に、一人だけ、二十代くらいの男性が座っていた。
 慌てて、反対側の貫通路に向かう。

 窓からのぞくと、こっちの車両は無人だった。
 由香里はすべり込むように貫通路の中に入り込んだ。

***

 どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、どっ、ど……。

 心臓が規則正しく、ただし凄まじく早く、胸を叩き続けている。

 無人の車両二つにはさまれた貫通路の中で、由香里は息を潜めていた。
 これが、由香里の作戦だった。

 今の時間帯、これから人が乗ってくるとしても、せいぜい、数人だろう。
 少なくとも、車両が埋まることはない――。

 電車が動き出すと、由香里の足元は激しく揺れた。

 だとしたら、開いている席を探しに車両間を行き来する人など、いないのではないだろうか。
 こうして貫通路の中に隠れていれば、駅を降りるときはともかく、人に姿を晒さずに済む――。
 最寄り駅で降りてしまえば、あとは裏のベランダから、こっそり自分の部屋に侵入すればいい。
 自分の部屋になら、ストックしてある衣装がいくつかあるのだ――。

 遅くに帰ってきたことの家族への言い訳は大変だが、そんなのは今の状況と比べれば心配のうちにも入らないだろう――。

 それまでは、ここで人を凌ごう。

 蛇腹の幌にめいっぱいもたれれば、由香里を挟む車両に座っている人たちからは見えない算段だった。

 出来ることなら、しゃがんで窓の下の死角に入り込みたいところだったが、それができないのにはわけがあった。

 パンツは由香里のお尻にぴったりと張り付いて、腰を曲げることをほんの少ししか許さなかったのだ。もちろん、無理やりにでも曲げることはできたろう。しかし、そうすればパンツは今よりさらに悲惨なことになりかねなかったのだ。

 パンツの両外側には、切込が入っていた。由香里が破ったのだった。結局、あのままでは履けなかったのだ。

***

 ひとまずは思惑通りに事が運んだことに、由香里はどこかほっとしていた。
 この作戦は安全だとも言い切れなかった。

 確かに、縦長の窓に映らないよう、貫通路の端にもたれるようにしていれば、そうそう見つからない筈ではあった。

 だが、貫通路のすぐ傍の席に誰かが座れば、角度によっては、貫通路の中でこそこそしている、異常な格好の女を見つけることは十分ありうる――。

 電車は間もなく、次の駅に停まった。

 お願い。誰も乗り込まないで――。

 由香里は祈ったが、片方の車両に、誰かが乗り込んだらしいのを、物音で感じた。幸い、その人は由香里からは見えないどこかの席に座ったらしい。

 数分経たないうちに停まったその次の駅でも、今度は複数人の靴が、それも両側の車両の床に響くのを聞いた。

――嘘。お願い……。もう、誰も来ないで――。

 計算外だった。最初の数駅は、むしろ乗り込んでる数は0に等しい算段だった。

 当然、その次の駅では、それ以上の数が乗り込んでくる気配を感じた。

 そのとき――。
 由香里は、我慢の限界を超えて、やってはいけないことをしてしまった。
 貫通路の窓から、隣の車両の様子をのぞいたのだ。

 向こうに気づかれないよう、配慮したつもりだった。

 だが、座席に座った数人のうちの、新聞を持って、座席に酒の缶を置いた、赤ら顔の小汚い男と、ほんの一瞬だけ、眼が合った……ような気がした。

 何となく、嫌な想像が頭を過ぎったが、すぐに死角に戻ったので、相手も酒の酔いからくる見間違いだと思ってくれるだろう……由香里はそう考えて、そのときはさほど気にもしなかった。

 それどころか、一瞬しか見れなかったとはいえ、座席が思っていたよりは埋まっていないのをはっきりと見たことで、動揺した心を取り戻しつつあった。

――忘れてたわ。乗り込んでくる人のほかに、降りる人もいるんだ……。

 ハプニングは、その次の駅へ向かう間に起きた。

 これまでと違って、電車は中々停まらなかった。

 次の駅からは、駅と駅の間隔がこれまでより長くなる。
 最寄り駅を除いて、停車はあと4回――。

 もちろん、間隔が長い分、電車に揺られる時間は長くなるが、車両の移り変わりが大抵電車が動き出す前か、その直後に起こることを思うと、停まってから何もなければ、しばらくは安泰が保証される。
 そういう意味では、心理的に楽だった。

 ところが――。

 突然、乱暴な音をとともに光が差し込んできた。

 むんとした酒の匂い。

 あの小汚い男が、貫通路の扉を開けていたのだ。

***

 男は背が低かった。顔の高さが殆ど変わらないために、男の顔がもろに由香里の目の前にある……。

 一瞬のうちに、男は口をあんぐり開けて固まったままの由香里の体を上から下までを眺め回した。

 丸出しのお腹、太もも。
 胸を締め付けて、乳首を浮かび上がらせている、爪で擦れば張り裂けてしまいそうな薄い布。

 酒臭い息を吐く男に、ぎょろっとした眼で至近距離で体を見られ――由香里は羞恥よりは、本能的な恐怖を感じた。

――嘘――嘘よ!嘘でしょう……。

 どうして、よりによって。
 男と由香里の間には数センチ程もない。

 貫通路の揺れにつられて、男の缶を持った手が由香里の胸に触れた。

――いや!……いや!来ないで……。

 だが、逃げ場など無かった。
 男の後ろ、少しずつ閉まっていく貫通扉の隙間からに、ぽつぽつと人の座った車内が見える。

 男の体に遮られて顔は見えないが、上品な靴を履いた女性の脚が見えた。

――誰か、誰か……助けて。助けてよ。

 もちろん、そんなことが望めないことも、望める状況ではないことは、由香里が一番分かっている。

 男がそのまま通り過ぎるか、引き返してくれることを願ったが、男の酔っているにしては冷徹な眼は、それを許していなかった。

 無言で、顎をしゃくる。

――邪魔だ、行け。

 そう言っているのは、明らかだった。
 おもむろに首を振った。

 男はもう一度、今度は激しく、顎でしゃくった。
 男の背後の貫通扉が、バネの力で閉まった。

 貫通路の中に、二人が取り残された。
 女子高生と、酔っ払いの小男。

 普通ならあり得ないような取り合わせの二人が、数センチの間隔で見つめあい、息をしていた。

 その間隔が、一気に縮んだ。
 男が、全身をこすり付けるようにして、由香里を押し出したのだ。

 嫌っ――!

 声を出して、叫びだしたい気持ちだった。
 だが、代わりに喉から出てきたのは、小動物のような、小さなうめき声だけだった。

 男は膝で由香里を押した。

 薄い布を隔てて、お尻に、男の骨っぽい膝が当たる。

 叫ぶ暇もなく、今度は、男が手で背中を押した。
 鞄が手から離れた。
 空になった手は、ドン、と大きな音を立てて、連結路の扉を叩いた。

 窓の向こうの乗客の視線が、一気に由香里の顔に集中する。

「邪魔だ!つっかえてんだよ!」

 間の抜けた声で、男はどやしつけた。
 由香里の心臓はすくみ上った。

 生まれて初めて、男の人に罵倒された。
 震える手で、細長い貫通扉のノブを握った。

 だがそれでも、由香里は扉を開けることはできなかった。

「はやく」

 非情だった。

この体を、晒すことなんて出来ない。何せ、今のわたしは――。

「バカみたいに、ケツ、出しやがって」

 男が、膝で由香里のお尻を蹴った。

 二発。三発。

 男の向かおうとしている車両に面した貫通扉の窓ガラスに、由香里の頭がぶつかり、音を立てた。

 ガラスの向こうに、人々の姿が見える。

 貫通扉の中で今にも泣きだしそうな顔をした少女の顔を、真っ直ぐに見つめる人々――。

 眼がねをかけたサラリーマン、年配の婦人、主婦らしき女性……。面々の表情が、不審げに曇っている。

 今自分の身に起こっていることが、とても信じられなかった。
 悪夢だ。

 だが、それでも、このノブを捻ることは――。

 由香里の脳裏には、数十分ほど前に、トイレの鏡で見た自分の姿が染み付いていた。
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